06. 安全衛生に関する相談

Q.1 会社に健康診断がないのですが‥‥‥

会社での健康診断がないのですが、小さい会社だから健康診断がないという理由は、法には触れないのでしょうか? 最近体調がすぐれないので、自分の身体が心配です。

Answer

 体調がすぐれないのは、よろしくありません。ご相談は職場の安全衛生の問題になります。
まず、職場の安全衛生の法律である「労働安全衛生法」についての認識が大切でしょう。
職場における労働者の安全と健康を確保し、快適な作業環境をつくるために制定されたのが「労働安全衛生法」です。近年、労働災害の発生件数は減少傾向にあるものの、高齢化社会の進展やストレス、過労死などの問題がクローズアップされており、その予防のための総合的な対策が必要となっています。それらを反映し、主に次のようなことを定めています。

(1)事業者などの責務(3~4条)
快適な職場環境の実現と、労働条件の改善を通じて労働者の安全と健康を守る。

(2)安全衛生管理体制(10~19条)
会社では安全衛生管理者を選任して、事故や災害の未然防止に努める。

(3)労働者の就業に当たっての措置(59条)
会社は労働者を雇い入れたときや仕事の内容を変更するときには、安全衛生教育を行う。

(4)健康保持増進のための措置(65~66条)
1.会社は労働者を雇い入れたときと、その後毎年1回定期的に、労働者の健康診断を行わなければならない。

2.会社は健康診断の実施結果に基づき、労働者の健康保持に必要な措置について、医師などの意見を聞かなければならない。

3.健康診断の結果は、本人に通知しなければならない。

以上が労働安全衛生法上の健康診断の根拠ですが、その他の診断についても、一般的に労働契約の付随義務として、使用者は労働者に対する健康配慮義務(労働契約法5条)を負っているとされています。

そこであなたのご相談ですが、会社のやり方は明らかに労働安全衛生法違反になります。対処方法は、2つあります。

1つ目は、会社との話し合いです。
あなた自身や職場の仲間と相談し、会社と話し合い改善を求めることです(話し合いのポイントは前述したとおりです)。前向きな姿勢で率直に話し合い、円満解決をしてください。

2つ目は公的機関の活用です。

上記が無理な場合には、労働基準監督署(以下、労基署)や労政事務所の活用があります。専門の職員が相談に乗ってくれ、場合によっては会社に勧告や指導をしてくれますので、一度尋ねてみては、いかがでしょうか。

いずれにしても、黙っていては何も解決しません。あなた個人というより、小さい会社といえども全社的な問題になりますから、仲間を募り勇気を持って、会社の不合理に立ち向かってください。 

Q.2 体調による部署の異動希望を聞き入れてもらえないのですが……

ご相談は職場の安全と使用者責任の問題になります。労働者の職場の安全と健康を守るために「労働安全衛生法」で、使用者は安全と衛生に十分配慮すること、労働者も必要事項を守ることなど定めています。

あなたのご相談との関係で重要なのは、次の3点です。

Answer

社会保険とは、国が運営する強制加入の保険をいい、雇用保険・労災保険を労働保険と健康保険、厚生年金保険を社会保険と呼んでいます。
制度の目的と法律のポイントは、次のとおりです。

(1)使用者の安全配慮義務(使用者の責務)
使用者は労働者に対して、労働契約上の付随的義務として、労働者の生命および身体を危険から保護するよう配慮すべき義務としての安全配慮義務を負っています(労働契約法5条)。

労働者は、仕事や仕事の場所・方法を自分で選べません。その分、使用者は作業場所、施設、器具などの設置、管理や業務について、労働者の生命および健康を危険から守るようにしなければなりません。

使用者が安全衛生関係法規を守らなかった場合、罰則の適用(6カ月の懲役または50万以下 安衛法119条)があるだけでなく、それが原因で事故が起きたりした場合、被災者である労働者は労働契約上の安全配慮義務違反として、債務不履行による損害賠償(民法415条)を請求することができます。

(2)労働者の健康管理(労働基準法〈以下、労基法〉66条)
使用者は労働者に対して、1年以内ごとに1回の健康診断の実施が義務付けられています。

使用者は、何らかの健康診断結果が出たら、医師の意見を聴かなければならず、この意見を勘案し、必要と認めるときは就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮など、適切な措置を講じなければなりません。また必要により、受診した労働者に対し医師による保健指導を行うよう、努めなければなりません。

(3)安全衛生管理体制
職場全体の安全や衛生を確保するために使用者は、政令で定める規模の事業場ごとに、総括安全衛生管理者(労基法10条)や産業医(労基法13条)などを選任するなどして、安全衛生管理体制を整えなければなりません。
以上が、安全衛生に関する法的根拠になります。

(4)法的判断と対処策
そこで、ご相談になりますが、あなたの上司の対応は使用者の責務を逸脱しています。

重要なのは医師の診断結果でしょう。業務の軽減の有無も医師の判断になるでしょう。当たり前のことですが、医師(産業医)の診断を受けて「作業の転換」が必要ということになれば、会社の総括安全衛生管理者と相談するのがベストの解決方法だといえます。それでも解決しない場合は、労基署の活用という方法があります。専門の職員が相談に乗ってくれ、場合によっては、会社に指導や勧告をしてくれます。

Q.3 デスクワークでの頚椎椎間板ヘルニアとの診断は、労災になりますか

1年前より肩こりと頭痛がひどく、病院で長時間のパソコン作業による頚椎椎間板ヘルニアと言われましたが、これは労災扱いになりますか? また、一度治療に専念したいのですが、仕事は続けたいと考えています。良いアドバイスをください。

Answer

ご相談内容は、頚椎椎間板ヘルニアが労働災害の適用になるか否かです。まずは治療に専念し、健康回復を優先してください。

(1)業務と傷病の関係性の証明
労働者が被ったけがや病気が業務(労働)災害であるかどうかを判断するのは労働基準監督署(以下労基署)ですが、業務災害であると認定されるためには、業務と傷病などとの間に、業務遂行性と業務超因性が認められることが必要です。椎間板ヘルニアと診断されるまでの経過の整理と担当医の診断結果によると、椎間板ヘルニアになった原因は、長時間パソコン作業を続けたことにあるとの結論ですので、明らかに労働災害に当たると思います。

従って、入社時から今日までのあなたの行ってきた業務内容を詳細に整理し、 肩こり・頭痛などがひどくなり、通院を始めたころから、頚椎椎間板ヘルニアと診断されるまでの経過をまとめることが大切です。

(2)労働災害申請の手続きについて
担当医に相談し、ヘルニアになった原因が業務に起因した「労働災害であると診断書」をいただいてください。その上で、会社に労働災害適用の申請書を提出してください(定められた様式にはこだわらなくて結構です)。会社が労働災害を認め、労基署に申請することで、労働災害の認定が受けられます。労基署が認定すれば、労災保険が適用され、休業(補償)給付として休業した日の4日目から1日につき給付基礎日額の100分の60と、休業特別支給金が給付基礎日額の100分の20、合計で100分の80が支給されます。

休業給付が受給される期間は、休日した日の4日目から療養のため働くことができず、 そのために賃金を受けなかった期間です。休業した1~3日までは事業主が平均賃金の60%を支払うことになります。会社が労働災害を認めない場合は、 労基署の認定が困難になりますので、話し合う際の言葉遣いなどには十分注意してください。

(3)労働災害による療養中の解雇は禁止されています
原則として、労働者が業務上のけがや病気がもとで療養するために休んでいる期間、およびその後出勤し始めてからの30日間、 女性労働者が産前産後休業を取っている期間と、その後出勤し始めてからの30日間の解雇は、 労基法第19条1項により禁止されています。なお、労働者が、会社が労基法に違反している事実を、 労基署に申告したことを理由に解雇することは、労基法第104条第1項で禁止されています。

(4)勇気をもって行動してください
あなたは、痛みをこらえて勤務しているようですが、さらに病状が悪化しますので素直に会社に話してみてはどうでしょうか? 健康が完全に回復するまで、職場異動(配転転換)していただくことも考慮してもらうことも、一つの方法です。会社に言ったら辞めさせられるのでは……と心配しているようですが、勇気を持って行動することが、解決の道を開きます。

それから、解決するまでは、退職届は絶対に提出しないでください。退職届を提出してしまうと、雇用契約の解除に合意したものと見なされます(労働者は健康第一です。十分に療養して、回復に専念してください)。