05. 社会保険に関する相談

Q.1 社会保険に加入するための条件やメリットを教えてください

派遣社員で働いています。派遣契約した際の労働条件でも裁量労働制は適用されるのでしょうか? 時間外手当もみなし時間から見た時間外手当分しか出ません。裁量労働制と派遣労働について、教えてください。

Answer

社会保険とは国が運営する強制加入の保険をいい、労災保険と雇用保険を労働保険、健康保険、厚生年金保険を社会保険と呼んでいます。ご相談は、そのうちの健康保険の問題と受け止め、アドバイスします。

(1)健康保険に加入するための明確な条件について
雇用期間が2カ月以上、引き続き見込まれる場合で、1日または1週間の労働時間および1カ月の労働日数が、その事業所で同種の業務を行う通常の労働者のおおむね4分の3以上ある場合は、常用として、被保険者資格が得られます。社会保険への加入手続きは派遣元で行います。

(2)メリットは?
健康保険からの給付は、病気になったりしたときに受ける療養給付(自己負担3割)のほか、休業した場合、傷病手当金として賃金の6割が支給されます。 また、保険料の半額が事業主負担です。さらに、厚生年金にも加入できます。

(3)時給の減額は正当性
正当な権利ではありません。派遣労働者であっても上記のとおり、要件を満たした労働者は、社会保険に加入させなくてはならず、強制適用となります。 従って、社会保険加入で時給を減額するのは違法となります。

(4)法的判断と対処策
以上のように、ご相談の時給の減額については違法なことで、正当ではありません。ただ難しいのは、現実において派遣先からの単金下げ圧力が強まっていることは事実です。デフレ経済では労働者の賃金も例外ではなく、下げ圧力があります。

そういった面から、社会保険加入に対する事業主負担との兼ね合いで時給の減額を主張していると思います。事を構えたくないとされる気持ちは理解できますので、上記を参考にご検討いただき、会社と話し合ってみてください。 

Q.2 勤務先に福利厚生が何にもありません

勤務先に福利厚生が何もありません。株式会社は雇用保険、社会保険に加入しなければならないと聞いたことがありますが……。

Answer

社会保険とは、国が運営する強制加入の保険をいい、雇用保険・労災保険を労働保険と健康保険、厚生年金保険を社会保険と呼んでいます。
制度の目的と法律のポイントは、次のとおりです。

(1)雇用保険
1.何かの理由で今まで働いていた会社を離職しなければならず、次の就職も見つかっていないとしたら、労働者にとって職を失うことは生活の一大事です。このような事態に備え、労働者の生活安定を図り、就職促進などを目的にした制度が「雇用保険」です。

2.雇用保険は、原則として労働者を雇用する全ての事業に適用されます。適用事業で働く労働者は、本人が希望するか否かに関わらず、全て雇用保険の被保険者となります。

3.雇用保険料は、賃金の総支給額に保険料率(一般の事業の場合、1000分の13.5)をかけたもので、このうち、労働者の負担は1000分の5となっています。

(2)健康保険について
1.仕事上のけがや病気は“労働者災害補償保険法”が適用になりますが、それ以外の病気やけがは、「健康保険法」が適用されます。健康保険は労働者とその家族が病気やけがをした場合、それが原因で会社を休み、賃金が出ないとき、不幸にして死亡した場合などに医療給付や手当金などを支給し、労働者やその家族の生活の安定を図ることを目的とした社会保険です。

2.健康保険法で定められている制度は、全国健康保険協会が保険者となっている「全国健康保険協会管掌健康保険」(協会健保)と、規模の大きい会社やいくつかの会社が集まって健康保険組合が保険者となっている「組合管掌健康保険」(組合健保)があります。

3.常時5人以上の労働者を使用する個人の事業所と、1人以上の労働者を使用する法人(株式会社や有限会社など)の事務所は、必ず加入しなければならない“強制適用事業所”となり(健康保険法13条)、その会社の労働者は全員“強制被保険者”となります。

4.保険料は、被保険者の標準報酬月額に保険料率(一般保険料率は標準報酬月額および標準賞与額の1000分の82、介護保険料はさらに 1000分の11.9)をかけた額を、事業主と被保険者が半分ずつ負担します。

(3)厚生年金保険について
1.現在の公的年金制度は、国民年金と厚生年金の2本立てになっており、国民年金からは全ての国民に共通する基礎年金が支給されています。厚生年金からは、基礎年金に上乗せする報酬比例の年金が支給されるという仕組みになっており、適用事業所は健康保険と同じになっています。従って、健康保険に加入している人は、厚生年金も全員被保険者ということになり、個人では厚生年金には加入できません。

2.国民年金は、20歳以上60歳未満の人、厚生年金と共済組合の被保険者およびその被扶養配偶者で、20歳以上60歳未満の人は必ず加入しなければなりません。

3.これに対し、厚生年金は被用者を対象にし、保険料は標準報酬月額・標準賞与額の1000分の153.5を使用者と労働者が半分ずつ負担します (厚生年金保険法6条・9条)。
以上が制度の仕組みです。

(4)法的判断と対処策
そこで、あなたのご相談になりますが、前述したように雇用保険、健康保険、厚生年金保険は、株式会社など法人の場合には、使用者に強制的に加入する義務を定めています。

しかし、現実にはあなたの会社のように強制適用事業所であるにも関わらず、社会保険に加入していないという問題があります。その背景には会社の経営事情があり、労使折半となる保険料の負担が財務を圧迫するとして、加入を怠っているのです。

法律上決められた社会保険加入の手続きを取らないことは、法律違反となり、違反事業主には6カ月以下の懲役または30~50万円以下の罰金も定められています。しかし、リストラや経営危機に悪乗りし、法律をもないがしろにして未加入や脱退が強行されているのが、残念ながら現状です。

この対処策ですが、

1つ目は会社に対し“法律違反”であると声を大にして加入手続きを求めることです。

2つ目は、健康保険と厚生年金保険は会社を管轄する社会保険事務所に、雇用保険はハローワークに状況をそれぞれ説明し、会社への改善を求めることです。

一般的にいえば、今の時代に社会保険にも加入していない会社は、悪質と見られても仕方ありません。自分自身の生活の安定と安心の問題ですから、仲間と相談され、会社と率直に話し合ってはいかがでしょうか。 

Q.3 試用期間中は社会保険に加入できませんか?

求人票に「厚生年金加入」と記載されていたところに就職するのですが、「試用期間中は雇用保険に入らない」「厚生年金は自分で払ってください」と会社側から言われました。試用期間中は社会保険の加入対象にならないのでしょうか?

Answer

ご相談は、試用期間の法的性格と労働保険および社会保険の加入の問題になります。まず、法的にどう定められているかについて、アドバイスします。

(1)試用期間の法的性格
会社が労働者を採用するときに、試用期間を設けることがあります。試用期間そのものは労働基準法(以下、労基法)で認められており、適法です。ただし、試用期間中の法的関係は労働契約であることに変わりはなく、本採用後の労働契約と同一の契約であるとされていますが、会社は試用期間中の労働者が従業員として不適切と判断すれば、本採用せず解雇し得るように解約権が留保された労働契約と、一般的に考えられています。

会社が留保解約権を行使する場合――すなわち、試用期間であることを理由に解雇する場合――には、適格性がないという判断の具体的な根拠 (社会通念上、相当と認められます)を示す必要があります。

(2)社会保険
社会保険とは、国が運営する強制加入保険をいいます。健康保険、厚生年金保険を社会保険と呼び、労災保険と雇用保険を労働保険と呼んでいます。

具体的には、次のとおりです。

1.健康保険
労働者が常時1人以上いる法人の会社は強制適用になり、保険料は事業主と被保険者が半分ずつ負担します。

2.厚生年金保険
法人の会社などの労働者(被用者)を対象にし、保険は企業単位で加入し、その企業の労働者全員が加入を義務付けられ、保険料は使用者と労働者が半分ずつ負担します。

3.労災保険
その事業所に使用されている全ての労働者に適用されます。保険料は、全額使用者の負担となり、業種により賃金総額の0.25~8.9%となります。

4.雇用保険
労働者を雇用する全ての事業に適用されます。適用事業で働く労働者は本人が希望する・希望しないに関わらず、全て雇用保険の被保険者となり、保険料は賃金の給与総額に保険料率(一般事業 1000分の13.5)をかけたもので、このうち労働者負担分は1000分の5になります。

以上が法的根拠です。重要なのは試用期間中であっても労働契約であり、本採用後の労働契約と同一の契約になるということです。

(3)具体的対処策
会社に就職が決まるということは、労働者と使用者との間で、こういう条件で雇う・雇われるという約束が交わされることを意味し、この約束のことを労働契約といいます。その約束について、勤め始めたら違っているということがないように、労基法では会社は労働者を採用するときに、働く条件を明示しなければならないと定め、特に重要な賃金や労働時間などについては、書面で明示しなければならないと定めています(労基法15条)。

一般的なのは「労働条件通知書」(厚生省モデル)で、会社に「就業規則」があれば、就業規則が職場規律(労働契約)になります。

このことを前提に、具体的対処策をアドバイスします。

1.労働条件の定めの確認
社会保険も労働保険も加入は任意ではなく、雇用形態等により対象外となる労働者もありますが、正社員として雇用されたのであれば、試用期間中も会社に加入義務があります。労働条件通知書および就業規則で、どう定められているか確認してください。

2.会社との話し合い
労働条件が約束と違っていたときには、会社に約束を守るよう要求することができ、ただちに契約を解除することもできます(労基法15条2項)。法律の根拠に沿って、勇気を持って話し合うことです。

3.社会保険事務所または労基署および労政事務所の活用 会社との話し合いがつかない場合は、最寄りの社会保険事務所または労基署および労政事務所(労働問題全般)に相談してください。専門の職員が相談に乗ってくれ、場合によっては会社に指導や勧告をしてくれます。 

Q.4 失業保険と出産手当金と両方をもらえますか?

妊娠6カ月ほどで退職した場合は、失業保険と出産手当金の両方をもらえるのですか?

Answer

ご相談は雇用保険法による基本手当の受給期間と健康保険法による出産手当金の支給の問題になるため、法律の決まり沿ってアドバイスします。

(1)雇用保険法による基本手当の受給期間(20条)
1.基本手当の受給期間は離職の日の翌日から1年間となっています。基本手当は、期間内に「所定給付日数」の限度で支給されます。

2.ただし、受給資格者の申し出により、出産・育児などで連続30日以上職業に就くことができない場合には、最高4年まで受給期間を延長することができると定められています。

(2)健康保険法による出産手当金の支給(52条、102条)
1.被保険者に係る保険給付の1つとして出産手当金の支給が定められています。

2.被保険者が出産したときは、出産の日(出産の日が出産予定日後であるときは出産の予定日)以前42日から出産の日後56日までの間において労務に服さなかった期間、出産手当金として1日につき標準報酬日額の3分の2に相当する金額を支給すると定められています。休業中に賃金が支払われる場合には、出産手当金と賃金との差額が支給されます。

(3)法的判断と対処策
以上のとおりで、制度の違いを理解することが大切です。 被保険者資格喪失日の前日までに、1年以上継続勤務して被保険者期間のあった人が、資格喪失後6カ月以内に分娩した場合には、出産一時金が支給されます。出産手当金は、退職の時点で既に支給を受けているか、支給を受ける条件を満たしている場合に支給されます(継続給付)。 そして雇用保険は、働く意思と能力がありながら再就職できない(失業)状態にあった場合が、受給要件になります。従って、退職や出産で連続30日以上職業に就くことができない場合は、30日が経過した日から1カ月以内にハローワークに申請することで、職業に就くことができない日数を受給期間に変えることができます(延長できる期間は、最大3年間となっています)。