04. 契約・派遣労働などに関する相談

Q.1 裁量労働制と派遣労働について教えてください

派遣社員で働いています。派遣契約した際の労働条件でも裁量労働制は適用されるのでしょうか? 時間外手当もみなし時間から見た時間外手当分しか出ません。裁量労働制と派遣労働について、教えてください。

Answer

派遣は労働形態、みなし労働時間制(事業場外労働および裁量労働)は労働時間の算定の問題になります。まず、それぞれの仕組みについてお答えします。

(1)派遣労働について
派遣労働は雇用(労働)契約を結んだ会社の指揮命令を受けて働くのではなく、他の会社(派遣先)の指揮命令を受けて働く労働形態で、派遣労働全体の80%が登録型です。派遣労働者は派遣元事業主と派遣労働契約を結ぶ一方、派遣先会社と派遣元会社との労働者派遣契約で定めた就労条件(業務内容・場所、指揮命令者、派遣期日、就業時間・就業日、時間外・休日労働、福利厚生施設の利用)の書面交付(就業条件明示書)を受けて派遣先で就業することになります。

それに先立つ派遣元会社との派遣労働契約では、労働基準法による労働条件の書面交付は当然のことです(労働基準法15条)。

(2)みなし労働時間制について
みなし労働時間制は、労働時間算定を適切に行うための制度で、1)事業場外労働と、2)裁量労働に関するものの2種類があります。みなし労働時間制が適用されるためには、その定められた「みなし時間」に対して、労働基準法などの労働時間が適用されることになります。

たとえば、「みなし時間を1日8時間」とした場合には、その日の実労働時間は8時間とみなされますので、実際に10時間働いても、労働基準法が規定する法定労働時間(1日8時間)を超過することにはならず、時間外の割増賃金(残業代)の支払い請求権も発生しません。

一方「みなし時間を1日9時間」とした場合は、労働基準法の法定労働時間を1時間超過することになるので、36協定の締結と届け出が必要とされるとともに、1時間分の残業代を支払う必要が生じます。なお、事業場外のみなし労働時間制は、使用者の具体的な指揮監督が及んでいる場合には、適用はないとされています。

2つの違いは次のとおりです。

1.事業場外のみなし労働時間制(労働基準法8条の2) 営業などで事業場(会社)の外で仕事をする場合で、労働時間の算定が困難な業務にだけ認められます。

2.裁量労働制(労働基準法8条の3および4) 裁量労働制は、仕事の仕方や時間配分について使用者が細かく指示するのではなく、労働者本人の裁量にまかせ、労働者は何時間働いても、前もって定めた労働時間だけ働いたことにする制度で、専門業務型と企画業務型裁量労働制の2つの種類があります。

いずれも適用業務や労働者の範囲が定められ、労使協定で労働時間を定め、労働基準監督署に届け出なければなりません。

以上が制度の仕組みになります。

(3)法的判断と対処策について
そこで、あなたのご相談になりますが、要約すると次の2点になるかと思います。

1つ目は、派遣労働契約の労働条件に裁量労働制の適用は可能かという問題になります。
前述したように裁量労働制は適用される対象業務が限定され、その導入には労使協定の締結と届け出が必要など、さまざまな要件がありますので、適用は困難でしょう。

2つ目は、時間外労働手当の支払いです。

これは、派遣元会社との派遣労働契約および派遣先会社と派遣元会社の労働者派遣契約の問題になります。

まず、2つの契約の中で就労条件とりわけ時間外労働がどう定められているか確認する必要があります。

みなし労働時間制は実労働時間に拘わらず、労働時間を一定の時間とみなしてしまうことから「残業代削減」「残業隠」のために濫用される危険性があります。従って、みなし労働時間制が労働基準法の要件を満たしていない場合は違法になりますので、原則に戻り、実労働時間によって労働時間を算定することになります。そのためにも、契約内容と実態を明らかにすることが重要です。その上で実態が明らかに労働基準法の要件を満たしていない場合には、勇気を持って派遣元会社に改善を求めてください。話し合いがつかないような場合は、最寄りの労働基準監督署に相談してください。専門の職員が相談に乗ってくれ、場合によっては会社に指導、勧告してくれます。 

Q.2 いつ解雇されるか不安

契約社員として15年働いていますが、先日会社から「今後、仕事がない場合自然消滅」のようなことを言われました。今後も働き続けたいとの意志は伝えたのですが、いつ解雇されるか、毎日不安です。

Answer

職場を失うということは、労働者にとって明日からの生活を直撃する、重大事です。会社の勝手気ままが許されると働いている側は、たまったものではありません。

そこで、弱い立場にある労働者を守るために憲法27条の勤労の権利から導かれる労働者保護法(労働基準法、労働法など)はさまざまなことを定め、特に会社側の一方的で不合理な解雇については、厳しい制限がされています。将来不安をなくすには、自分自身がどういう法律で守られているかを知っておくことが大切なため、ご質問については、法的な根拠に照らしながらお答えします。

まず問題点ですが、2つあります。

1つ目は、あなたの雇用契約関係は「契約社員」であること、2つ目は会社が言う自然消滅とは「解雇または有期労働契約の更新拒否(雇い止め)」に当たるということです。

この2点について申し上げます。

(1)契約社員の法律関係について
パート、アルバイト、契約社員と名称や雇用形態が変わっても、同じ労働者であり、労働基準法、最低賃金法、雇用保険法などの労働法は誰にでも適用になります。しかし、現実にはこのような法律自体が知られていなかったり、契約社員の多くが身分不安定な有期雇用であったりするため、一般の正規社員との間にはさまざまな格差が生じています。

1994年にはパートタイム労働法が施行され、通常の労働者と同様の処遇確保に努めなければならないとされました。事業主が講ずるべき措置の主な内容は次のとおりです。

1.労働者保護法令の遵守
労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、労災保険法、雇用保険法など、パート・契約社員にも適用されるので使用者はこれらの法律を遵守すること。
2.適正な労働条件の確保
労働条件を明示した文書(労働条件通知書)の交付、就業規則の作成など。

(2)解雇または有期労働契約の更新拒否(雇い止め)について
1.解雇
使用者は、就業規則に解雇事由を記載しておかなければなりません。(労働基準法15条)また労働者を解雇するに当たり、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められないような場合には、解雇権を濫用したものとして無効となります。(労働契約法16条)合理性が認められても、労働基準法20条は、労働者を解雇するときは30日前に予告しなければならず、30日前に予告しない使用者は30日分以上の平均賃金を支払わなければならないと定めています。

2. 有期労働者(契約社員など)の契約更新拒否(雇い止め) 契約社員でも契約更新を繰り返している場合は、黙示の更新があったと認め、その雇用契約は期間の定めのないものとして延長されたものとするのが一般的です(裁判例)。すなわち、労働者の抱いた雇用契約の期待が強く、その期待が誰が考えても最もだというときは、更新を拒否するときに「客観的で合理的な理由が必要」という解雇権濫用法理が類推適用されます。

以上が法的根拠です。

(3)法的判断と対処策について
そこであなたの場合ですが、まず「まだ働きたい」との意思表示をしたことは良かったと思います。前述したように基本的にはさまざまな形で法律で保護されているのですから、仮に会社から「自然消滅」(解雇、更新拒否)の話があっても、それは使用者からの一方的解約であなたの承諾の問題は生じません。後は、解雇または更新拒否が有効か無効か(合理的な理由があるか、ないのか)の問題になります。具体的にそうした動きがあった場合はご相談に乗りますので、とりあえず会社の言動など(嫌がらせがあるかもしれません)を克明にメモ(5W1H式に)しておいてください。これは最悪のケースですので、そういう事態にならないことを祈念します。

あなたが15年の永きに渡り会社のために頑張ってきたのは仕事が評価され、上司や仲間の信頼を得てきたからだと思いますので、円満な話し合いによる解決がベストでしょう。会社の立場も理解しながら、条件などを提示して(場合によっては給与の削減)など真摯(しんし)に話し合えば最悪のケースは回避できるかもしれません。

Q.3 派遣元の契約内容と派遣先の契約内容が違う

派遣社員で端末操作をしています。以前、派遣元より端末を利用する場合は、1時間につき10分休憩することになっていることをうかがいましたが、実際は休憩が取れません。また、このほかにもいくつか契約内容が違っています。

Answer

派遣労働者の労働条件システムの問題になりますね。 労働者派遣の際には2つの契約が取り交わされます。

派遣先と派遣元との間の労働者派遣契約と、派遣元と派遣労働者との間の派遣労働契約です。派遣労働者(あなた)が直接関わるのは、雇用(労働)契約である“派遣労働契約”の方ですが、労働者派遣契約の内容も待遇に影響するので、無関係ではありません。

労働者の派遣は雇用者(派遣元)と仕事の指揮命令する者(派遣先)が異なるため、派遣労働関係にはミスマッチがつきものです。このことから、派遣労働者の雇用の安定と福祉の増進に役立てることを目的に「労働者派遣法」があり、また、この法律が適切に実施されるように、派遣先と派遣元の両方に講じるべき措置に関する指針(厚生労働省告示)が定められています。

具体的には次のような内容です。

<派遣元会社が責任を負う事項>
1.労働契約
2.賃金(時間外などの割増賃金を含む)
3.時間外・休日労働の協定、締結、届け出
4.年休
5.災害補償
6.健康診断
など

<派遣元会社の構じるべき主な措置>
1.労働者派遣契約の締結に当たっての就業条件の確認
2.賃金(時間外などの割増賃金を含む)
3.時間外・休日労働の協定、締結、届け出
4.年休
5.災害補償
6.健康診断
など

<派遣先会社が責任を負う事項>
1.労働時間、休憩、休日
2.育児時間
3.生理日の就業が著しく困難な女性に対する措置
4.安全衛生管理体制
など

<派遣先会社の講ずるべき主な措置>
1.労働者派遣契約の締結に当たっての就業条件の確認
2.労働者派遣契約に定める就業条件の確保
3.労働者派遣契約の定めに違反する事実を知った場合の是正措置
4.適切な苦情の処理
5.労働、社会保険の適用促進
6.派遣元事業主との労働時間などに関わる連絡体制の確立
など
以上が労働者派遣に関する法的根拠です。
そこであなたのご相談になりますが、解決方法は次の2点です。

(1)労働条件通知書および就業条件明示書の確認
ミスマッチをなくすために派遣会社はスタッフに対し、労働条件通知書および就業条件明示書により、1)業務内容、2)就業場所、3)派遣期間・就業日、4)就業時間・休憩時間、5)安全衛生、6)苦情処理、7)派遣元責任者、派遣先責任者などの労働条件について、派遣に先立って書面で明示し、交付することが義務付けられています(派遣法34条)。怠った場合には罰則が科せられる義務事項です。

派遣先は、派遣労働契約や就業条件明示書に示された範囲でのみ、派遣労働者(あなた)に対する指揮命令権が認められます。

派遣先は、直接雇用のように自由に使えるわけではありません。従って、あなたが会社(派遣元)と取り交わした雇用(労働契約、労働条件通知書および就業条件明示書)がどうなっているかを確認し、ミスマッチがあれば一つ一つ具体的に明らかにしてください。

(2)苦情処理の申し出など
ミスマッチの解決方法ですが、就業条件明示書で、1)苦情処理、2)連絡(責任者)体制が明らかになっていますので、どちらかを活用し、改善を求めてください(契約違反の事実を知った場合の是正措置=派遣先指針第2の5)。

なお、ご相談内容にもありますが、OA機器に向かって連続して作業する時間は1時間以内とする(労働者がVDT作業を支障なく行うことができるように支援するために、事業主が講じるべき措置などを示したガイドライン。平成14年4月5日 基発第0405001号)ことが必要とされています。これらも含めて身近な職場の問題ですので、円満に話し合うのがベストでしょう。 

Q.4 雇用契約をする上で保証人が必要となるのか?

派遣会社と面接を行った際に「保証人」が必要と言われましたが、本当に保証人は必要ですか? また、この保証人とは、どの範囲の責任を負いますか? 私が退職した後も、その効力はあるのでしょうか?

Answer

ご相談は労働契約における身元保証の問題になります。

労働契約に付随して身元保証人を立てさせて、身元保証人と会社との間で身元保証契約をするのが通常です。身元保証人は、労働者の人物や技能を請け合って使用者に迷惑をかけない責任を負うもので、一般的には労働者の行為により、使用者の受けた損害を賠償することを約束するものです。身元保証契約の内容は、一般的に保証する責任範囲が極めて広く、期限の定めさえ、ないことがあります。

ところが、保証人は多くの場合、労働者に懇願されて軽率に契約します。現実的な問題としては契約書の文言に相当の制限を加えて解釈し、責任の範囲を合理的なものとする必要があり、「身元保証に関する法律」が制定されています。使用者としても、労働者の人物や能力を知悉し得ない間は保証人に頼ることはともかく、その後は労働者を自ら監督し、自分の責任で職務や地位を定めるのが当然だからです。

身元保証人の責任の概要は、次のとおりです。

(1)身元保証契約
身元保証契約とは「引受、保証その他名称の如何を問わず」「被用者の行為により使用者の受けた損害を賠償することを約する」契約をいいます(身元保証に関する法律第1条)。

(2)保証期間
1.保証期間は特約がなければ契約成立のときから3年間、商工見習い者については5年間とする(第1条)。

2.特約を定めたときでも5年を超えることはできない。これより長い時間を定めたときは、5年に短縮される(第2条)。

3.労働契約に期間があれば、保証の期間も原則として、それによる。

(3)身元保証人の解除権
1.被用者に業務上、不適任または不誠実な事跡があって、このため身元保証人の責任を惹起するおそれがあることを知ったとき、使用者は遅滞なく保証人に通知しなければならない(第4条)。

2.使用者が通知義務を遅滞し、身元保証人が解約できなかった場合でも身元保証人は当然にその責任を免れるわけではない。

3.身元保証人は(1)の事実を知りえたときは保証契約を解除しうる(第4条)。

(4)保証責任の限度
裁判所が身元保証人の責任およびその金額を、一切の事情を考慮して合理的な額を決定すべきものとしています(第5条)。

(5)法的判断
従って、ご相談の件になりますが、保証人は必要であり、保証期間と責任は前述のとおりです。

Q.5 契約書どおりの賃金をもらう権利があると思うのですが……

パート社員で、1年ごとの契約更新があり、今年も契約書を交わしました。けれども、2カ月ほどして、担当者から契約書の時給額が間違っていたので、「来月より100円下がる」と言われました。担当者とも当時確認して契約書を交わしたので、私としては納得がいきません。

契約書どおりの時給をもらえる権利があると思うのですが、今の職場で働き続きたいので、もめたくもありません。どうしたらよいでしょうか? 

Answer

ご相談内容は、パート雇用契約の問題になります。

(1)労働条件の明示義務
採用時に口頭で告げられた時間給と実際に働いてみたら違っていたということがしばしばあります。そこで労働基準法では、会社は労働者を採用するときに、賃金や労働時間などの働く条件(労働条件)を明示しなければならないと定めており、とりわけ次の

1.労働契約の期間に関する事項
2.就業の場所および従事すべき業務に関する事項
3.始業および終業の時刻、休憩時間、休日、休暇に関する事項
4.賃金に関する事項
5.退職に関する事項

などの重要事項は書面で労働者に明示しなければならないと定めています(労働基準法15条)。また、厚生労働省は指針で労働者を雇い入れるときの労働契約について「労働条件通知書」などにより労働条件を書面で明示するよう定めています。労働条件の明示義務違反は、30万円以下の罰金が科せられます。従って、雇用契約に際し、労働条件通知書を受け取ることがまず基本となります。

(2)法的判断と対処策
そこでご相談になりますが、1年ごとの契約更新に当たってあなたの手続に瑕疵(落ち度)はありません。問題は会社の対応です。おそらく、担当者のミスが上司のチェックで発見されたのでしょう。手続き的には社内決裁の前段でのミスの発見で、原因は担当者の不注意によるうっかりミスだと思います。

本来、雇用契約の内容が曖昧にならないよう書面により約束を取り交わしているわけですから、「不注意」による“ミス”とはいえ、あなたの怒りは当然です。後は、ミスにどう対処するかという問題になりますが、契約書どおりとするのは当然である一方、併せて重要なのは、本人の反省と、1)原因の究明、2)再演防止策、3)あなたに対する誠意ある対応(代償措置など)になるでしょう。また、最低賃金についても毎年改定されていますので、それに抵触しないことが必要です。

あなたも現在の仕事を続ける意思はあり、あまりもめたくないということですので、会社側の責任者を交えて、1)~3)を中心に再度話し合い、円満に解決してください。

Q.6 契約期間内での消化ができなかった年休(年次有給休暇)は?

派遣先の都合で契約終了期間が早まり、部署の移転や引き継ぎなどで契約期間内に年休を消化できませんでした。派遣元に、残った年休を消化したい旨を相談したところ、「契約期間内での申請以外は認められない」と言われました。契約期間を終了した場合は消化できないものですか?

Answer

ご相談は派遣労働者の年休(年次有給休暇)の問題になりますので、法的根拠を含めてアドバイスします。

(1)年休権の発生要件
2カ月、3カ月契約のような短期契約であっても、契約を更新して6カ月以上雇われたり、派遣先が違っても、同じ派遣会社を通じて実質的に6カ月以上継続して働いた場合、および全労働日の8割以上出勤している場合は、法定の日数の年休を取得する権利が発生します(労働基準法39条1項)。

(2)年次有給休暇の付与日数
派遣元は採用後、満6カ月に達した日の翌日から向こう1年について、最低10日の年休を派遣労働者に与えなければなりません。その翌年以降は、少なくとも最高20日間になるまで、勤続年数に応じて、年休を与えなければなりません(労働基準法39条2項)。

(3)年休権行使に関する使用者(派遣元)の義務
使用者には、労働者が年休を取得することを妨げてはならない不作為義務、労働者が希望する時季に年休を取得できるよう状況に応じた配慮義務(人員配置や業務の差し繰り)、および年休日の賃金を支払う義務があります(労働基準法39条6項) 。

(4)年休の請求(労働者の時季指定権)
労働者は、いつでも自由に年休を取ることができます(労働基準法39条4項)。また、年休をどのように利用するかも、労働者の自由で使用者は休暇の理由次第で年休を与えたり、与えなかったりすることはできません。また使用者は、年休を取得した労働者に対して、賃金の減額、その他不利益な取扱いをしないようにしなければなりません(労働基準法136条)。

(5)使用者の時季変更権
一度に多数の労働者が年休を取ったら、会社の正常な運営ができなくなることも考えられます。そこで事業に支障が生じるときに限り、会社(使用者)は年休を他の日に振り替えることができます(労働基準法39条4項)。

事業に支障があるときというのは、誰が見てもそのとき休まれたら会社が正常に運営できないという具体的な事情があるときで、ただ忙しいからという理由だけで、労働者が休みたい日に休ませないということはできません。派遣会社によっては、「年休の申請を10日前にしなければ認めない」「1カ月に取れる日数を制限する」などという場合がありますが、これは労働基準法違反の疑いがあります。

以上が年休に関する法的根拠になります。

そこで、ご相談の件ですが、2つ問題点を指摘します。

1つ目は、年休権行使に関する使用者(派遣元)の義務違反です。
部署の引っ越しなどで忙しく、契約期間内での年休消化が可能ではなかったとの主張ですが、使用者には雇用主として、あなたが希望する時季に年休を取得できるよう代替労働者を派遣先に派遣するなどの配慮義務があるのですから、あなたの年休権行使に関し、使用者責任を果たしたとはいえません。

2つ目は、年休の取得です。
常用型の派遣労働者の場合には、一般の労働者と変わりがないのですが、登録型の労働者の場合には派遣先が代わったり、就業期間と就業期間の間に多少の間隔が空くことになるので、問題になります。厚生労働省では「継続勤務」の存在については、若干の間隔があっても継続して就労するものとして扱うとしており、その若干の期間については、2カ月以上の雇用期間の職種は1カ月以内の間隔、1カ月以内の雇用期間の場合は数日以内の間隔としています。あなたの場合も常用型であれば、年休はいつでも自由に取得でき、使用者(派遣元)の承認は必要ありませんし、使用者には時季変更権が認められているだけということになります。

登録型の場合は前述したように「継続就労」が重要になり、「若干の間隔があっても継続して就労するものとして扱う」との厚生労働省の方針が判断基準になるでしょう。従って、派遣元の「契約期間内での申請以外は認めません」という主張は誤りです。

1.派遣先会社の都合での契約期間の変更になるため、派遣元会社とは正規の契約期間内で、年休を取得します。

2.継続勤務の条件のもと、次の派遣先を求め、その派遣期間内で年休を取得するなども考慮して良いと思います。念のため最寄りの労働基準監督署に相談し、その上で派遣元会社(苦情処理担当者)と話し合い、円満解決してください。

必要に応じて派遣会社は代替スタッフを手配することになる場合でも、別の人員の手配には時間もかかることと思われますし、引き継ぎをしている状態であれば代替は難しいものがあります。有給休暇の取得には早目の準備を心掛け、毎月計画的に取得していくことや、夏休みなど職場の流れなどに合わせ、取得する方法なども後々のトラブルになりにくいと思います。 

Q.7 次の派遣の研修に行った時点で自動的に契約更新されてしまいますか?

契約社員をしていて今の契約が終了する前に、もう次の派遣の話が来て、契約終了の1週間前からその派遣の研修に行っています。現在の契約と中身も異なるし、新しい契約書もまだ来ないので、「次の契約更新はしない」と申し入れたところ、「就業規則で14日以上前の申し入れとなっているので受理できない」と言われました。次の派遣の研修に行った時点で、自動的に契約が更新されたことになるのですか?

Answer

ご相談は契約社員という働き方のルールの問題になりますので、契約社員の持つ意味と法的問題点についてアドバイスしますので、会社対応の参考にしてください。

(1)契約社員とは
法的には契約社員という特別な用語は存在しません。会社によっては契約社員とは別に委託社員とするなど、名称は多様で、中にはパート、アルバイトを含む場合もあります。

契約社員は、次のような特徴を有しています。

1.非課税限度(年収103万円)が被扶養者基準(年収130万円)を超える点で、それ以下の待遇で就労するパート、アルバイトとは区別されるが、正社員よりは格段に低く処遇されている。

2.フルタイム労働であり、この面でも労働時間数が少ないパートなどとは区別され、正社員に近い労働時間数、労働日数での就労を予定している。

3.期間を定めない労働契約で長期の就労を予定する正社員とは異なり、期間を定めた短期の有期契約の雇用である。しかし、業務は従来正社員が担当していたものを予定しており、契約更新を反復することで、事実上長期の雇用となることが少なくない。

4.一般的に職場の規律(労働条件)は就業規則で決められているが、裁量労働制や成果主義賃金など、個別労働契約を軸として労働条件の個別決定の傾向が強まっている。

(2)労働契約と労働条件の明示
1.契約社員も労働法においては労働者であり、使用者との労働契約を結んで労働を提供する点では変わりはなく、労働基準法を始めとする労働者保護法規の適用を受ける。契約社員は新たな非正規雇用類型であって、通常の労働者より弱い立場にあり、より不利な労働条件を定める契約内容となりがちである。

2.この点から労働基準法では、労働契約の締結にあたって使用者に賃金、労働時間、その他の労働条件を明示する義務を課しており(15条1項)、特に重要な、①労働契約期間、②就業の場所および従事する業務、③労働時間に関する事項、④賃金に関する事項、⑤退職に関する事項の明示は書面の交付が必要であるとしている(労働基準法施行規則5条)。

3.明示された労働条件が実際の労働条件と異なるときには、労働者は即時に労働契約を解約することができる(15条2項)。さらに、労働契約で定めた労働条件は、契約期間があるときは、特別な事情がない限り契約期間中には変更が許されないと考えられる。

4.なお、派遣会社の中では登録型の派遣社員を「契約社員」と呼び、正社員と区別する例が少なくない。その場合には、契約社員というだけでなく、それが派遣労働者としての雇い入れである旨を、労働者に明示しなければならない。

(3)契約期間による拘束(期間の定めのない契約と有期雇用の違い)
1.期間の定めのない契約は、労働者が雇用の継続を望む場合、解雇されてやむを得ない合理的な理由がない限り、定年まで雇用が継続されるので、労働者の地位を安定させるものである。他方、労働者にとっての雇用の拘束性は、2週間前に申告すれば、原則としていつでも辞められる。

2.有期雇用(契約社員など)は、使用者は契約締結に当たって契約期間を書面によって明示することを義務付けられているとおり、労働契約に期間の定めがあり、契約期間が終了すれば、契約が更新されない限り、原則として、契約は自動的に終了する(民法626条)。従って、労働者にとって雇用の継続性・安定性の上から弱い立場になる。他方、雇用の拘束性は、その契約期間内は「やむを得ない事由」がない限り、辞めることはできない。

以上が契約社員に関する法理になります。
そこであなたのご相談になりますが、2点アドバイスします。

1つ目は、労働契約と労働条件の明示です。 使用者には、労働契約締結に当たって労働条件(労働契約期間、就業の場所および従事する業務など)を労働者に書面で明示する義務があること、明示された労働条件が実際の労働条件と異なるときには、労働者は即時に労働契約を解約することができるということです。

2つ目は、雇用の拘束性です。 労働契約に期間の定めがある場合、期間途中での当事者の一方からの解約はやむを得ない事由がない限り認められませんが、期間の満了によって契約は自動的に終了するということです。

会社が労働契約に当たって契約書(労働条件の書面交付)を取り交わさないのは違法であり、契約期間満了後に契約の更新をするかしないかは、あなたの自由ということになります。

Q.8 学歴詐称(履歴書)になりますか?

現在大学生で就職活動を控えています。今の大学に入る前に短期大学に入学(入学金を払ったが一度も授業を受けていない)しましたが、やはり四大に行きたくて、退学届を出しました。この場合、履歴書に短期大学の退学を記載しないと学歴詐称になってしまいますか?

Answer

ご相談は経歴詐称の問題になり、経歴詐称事件で最も問題になるのは「経歴に関する労働者の真実告知義務」と「経歴詐称と懲戒解雇」で、判断のポイントは次の4点になります。

1.労働契約締結に当たり、使用者が経歴の申告を求めた場合、労働者は原則としてこれに応ずべき義務を負う。

2.経歴詐称に対する懲戒解雇が有効かどうかの判断は、真実を通知していたならば採用しなかったであろう、重大な経歴の詐称であったかどうかを基準とする。

3.学歴や職歴の詐称は、労働力の適正な配置を誤らせるような場合には、懲戒解雇が有効となる。

4.履歴書の賞罰欄にいう「罰」とは、一般に確定した有罪判決を意味する。

以上を踏まえて3点アドバイスします。

1つ目は、重大な経歴詐称は解雇されても、やむを得ないということです。

働くということは、全人格的な適正が問題になるので、使用者は経歴をも重視して採用を決定します。たとえば、パソコンの取り扱いの経歴が5年以上とあるのに、1年だったら、採用に当たって大きな差異が生じます。また採用後も、賃金、職種その他の処遇を決定して行く上で、経歴は参考になります。この意味からも、経歴詐称は労働契約上仁義に反する行為であり、単なる解雇ではなく懲戒解雇の理由にもなります。

2つ目は、軽微な経歴詐称では解雇できないということです。 その詐称がなければ採用がなかったであろうというような重大な詐称であれば、解雇理由になりますが、採用に影響がないような軽微な詐称の場合には解雇権の濫用となります。

たとえば、高校2年中退を中卒と詐称したことについて、もし本当のことを書いても採用されただろうと思われる場合には、解雇は行き過ぎだとされます。

3つ目は、裁判例です。

1.学歴詐称に基づく解雇が有効とされる場合
学歴により個別の職位を設定している場合(東京地裁判決 昭和46年11月25日)や、高卒・中卒のみを採用する人事労務管理体制を一貫している場合(東京地裁判決 昭和60年5月24日)、学歴を確定的な採用条件としている場合(東京地裁判決 昭和54年3月8日)および学歴が適格性判断の上で重大な要素の場合(浦和地裁判決 平成6年11月10日)などです。

2. 学歴詐称に基づく解雇が無効となる場合
学歴の詐称により経営の秩序が乱されたとはいえない場合 (福岡高裁判決昭昭和55年1月17日)や学歴・職歴が労働力の適正評価に何ら影響がない場合(仙台地裁判決 昭和60年9月19日)などです。また、税理士の資格、および中央大学高等部卒業を詐称したことが、業務遂行に重大な支障を与えたことにはならないとして、このような事柄の詐称を理由とする解雇を無効とした判例もあります(名古屋地裁判決 平成5年5月20日)。

4つ目は法的判断です。
以上を総合すれば、裁判例に示されるとおり、入社を希望する会社の人事制度や入社後の 業務遂行の状況なども判断材料の一つになっていますが、学歴に関しては、 労働力の適正な配置を誤らせるなどの理由の存否が決め手になるといえます。私見ですが、学歴とは学業(学問を修めること・学校での勉強)に関する経歴になりますので、入学していなければ、 学問を修めたことにはならないと考えます。 

Q.9 同じ派遣先に派遣元を替わって働いても、違法にはならない?

派遣会社AからB社に勤めています。B社は将来、系列会社の派遣会社C社に統一するらしいのです。A社の契約が後1カ月で終了するので、C社に登録しました。A社の契約終了後にC社に登録してB社に派遣されても、違法なことになりませんか?

Answer

相談内容は、派遣会社(A)に採用され、派遣先(B)に勤務しているものの、B社は系列会社としてC社を持ち、近々B社の派遣社員はC社に統一される方針のよう……。その際、あなたはC社に登録したが、C社からB社に派遣された場合、法律的にはどうか?ということの相談ですね。以下、簡単にアドバイスします。

あなたは、現在A社に在籍していますが、後1カ月ほどでA社が終了するので、C社に登録したとのこと。C社に登録したということは、就職先をC社に変更したことになります。従って、就職先が変更後は、あなたに対する人事権はC社に変わります。よって、あなたの派遣先を決めるのはC社ですので、「B社、D社、E社」になるかの判断は、C社に委ねられることになります。どの会社に派遣されても、違法性は生じません。従って、C社からB社に派遣されることは違法ではありません。

もし、あなたが今後、新たに派遣される会社の職種などに馴染まない場合は、自ら変更を申し出るか、その申し出が叶えられない場合には、新たな手段を考えることになります。