02. 労働時間・休暇などに関する相談

Q.1 年俸制だと残業代はもらえないの?

転職先の雇用条件で質問があります。年俸制で賞与は年2回となっていますが、超過勤務時間については「時間外労働手当は支払われない」とありました。年俸制の場合、残業代はもらえないのでしょうか?また、この会社の裁量労働制の導入に違法性はないのでしょうか?不安です。

Answer

ご質問のポイントですが、「裁量労働制の導入について、会社は適法に導入しているのか」ということと、「年俸制だと時間外労働をしても時間外割増賃金はもらえないのか」ということですね。

1点目は、裁量労働のみなし労働時間制が適法に定められ運用されているかという問題になります。すなわち、使用者が残業代削減、残業隠しのために濫用していないかということです。裁量労働制(労基法38条の3)では、業務の遂行手段や時間配分について使用者が細かく指示するのではなく、労働者本人の裁量にまかせ、実際の労働時間数と関わりなく、労使の合意で定めた労働時間数を働いたものと“みなす”制度です。 

“みなす”とは、現実に10時間働こうが5時間しか働かなかろうが、みなし時間(例えば8時間)働いたものとして賃金を支払えばよく、実労働時間に基づいて時間外割増賃金を支払う義務はないということです。 

この制度のポイントは 

1.実労働時間原則の例外として“専門職”と“企画職”の労働時間の算定について認められる特例である。 

2. 裁量みなし時間制は、労使協定の締結・届け出(専門職)、または労使委員会の決議・届け出(企画職)によらなければならない。 

3. 特に企画職の裁量みなし時間制が適用されるためには、対象労働者の個別具体的な同意が要件である。 

などです。 

2点目は、年俸制と時間外割増賃金の支払いについてです。 

年俸制の場合には、割増賃金が支払われないというのは、単純には誤りであります。年俸制とは、単に賃金を年単位で決める制度にすぎないので、年俸制の場合でも労基法が適用されます。同法24条には、(1)賃金は毎月1回以上一定の期日を定めて支払わなければならない、(2)時間外労働や休日労働があった時は、その分の割増賃金をやはり月ごとに支払わなくてはならない、という決まりがあり、これらの規定が年俸制にも適用になるのです。つまり、「年俸制だから時間外手当を支払わなくてよい」ということにはなりません。また、いわゆる残業手当、すなわち時間外労働や休日出勤した時の割増賃金は、労基法37条で最低基準が規定されています。 

残業代を年俸金額とは別に支払ってもらえるかどうかは、まず、あなたの会社の労働契約・就業規則などを見て年俸額の内容を確認しましょう。一般的には、年俸に時間外労働などの割増賃金が含まれていることが労働契約の内容であることが明らかであること(労働条件明示書や就業規則に明記されているなど)、通常の労働時間に対応する賃金部分と割増賃金相当分とに区別することができること、割増賃金相当部分が法定の割増賃金額以上支払われている場合は、労基法37条に違反しないとされています。 

割増賃金の請求権が発生しないのは、適法なみなし時間制がとられ、かつ、みなし時間が8時間以内とされている場合に限られ、これに該当しない場合は、労基法の原則どおり実労働時間で算出される割増賃金請求権があります。 

労基法上、賃金の時効は2年ですから、記録があれば退職後でも2年までさかのぼって支払いを請求できます。 

なお、年棒額を12以上で割り、月給の他に賞与月にも賞与支払いがなされる年俸制(例えば、月給が年俸額の16分の1、賞与として夏冬各16分の2が支給)の場合には、基礎賃金は16分の1ではなく、12で除した額となります。 

そこであなたの場合ですが、専門業務型か企画業務型かを判断する必要がありますが、いずれにしても適用に当たっての、 

1. 適用対象業務 
2. みなし労働時間の算定 
3. 時間外割増賃金の支払い 

など具体的事項は労使協定や決議などで定められているはずですので、これらの疑問点がどうなっているか確認する必要があります。

 

Q.2 部署を変わりたいのですが‥‥‥

私の部署ではお昼休みの45分以外残業を何時間働いても休憩がありません。また、休みも好きな日に取れない状態です。そこで、部署を変わりたいのですが、そのような希望は、会社側に受け入れられるものでしょうか?

Answer

あなたの不満も理解しますが、職場全体の利益を追求すべきではないでしょうか。職場が変わることで、あなた自身の問題は解決するかもしれませんが、根本的な改善がされない限り、いずれ同じことの繰り返しになります。

これまでの努力を無駄にしないためにも、あきらめず、仲間の皆さんと改革志向で頑張るべきです。うねりとなれば、会社も無視できないでしょう。

そこでどう対処するかですが、言うまでもなく、労働条件の基準は労基法で定められています。

1.労働時間は1日8時間、週40時間が原則です(32条)。

2. 休憩時間は、労働時間が6時間を超える場合は45分、8時間を超える場合は1時間以上の休憩時間を労働時間の途中で与えなければなりません。そして、休憩時間は労働者に自由に利用させなければなりません。つまり、拘束した休憩であってはならないのです。

3. 休日は毎週少なくとも、1回“休日”を与えなければならないとしています(35条1項)。

4. 年休は、労働者が請求したときは、使用者はその“時季”に与えなければなりません。

5. 残業や休日労働をしたときには、使用者は割増賃金を支払わなければなりません(37条1項)。そして、その根拠は36協定により、決められています。違反した場合は、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金です。

このことからも、あなたの職場の労働の実態は、明らかに労基法違反と指摘できます。経営者自身が法律違反を奨励しているのでは、「社員に遵法精神を持て」と言っても無理があり、公平な社会は成り立ちません。社員が常に不安や不満を抱えているようでは、会社の発展は望めません。経営者こそ、意識改革すべきでしょう。

解決方法として次の2つをおすすめします。

1つ目は、会社に仲間と相談し労働組合をつくるか、あるいは私どものような個人で加盟できるユニオンに加入して、労働組合として会社に対応し、解決することです。

ユニオンは労使対等の立場で労働条件などを決めていく、憲法と法律で保障されている権利です。ぜひ、仲間と相談し、勇気を持ってチャレンジしてください。その場合には、私どもの専門家がサポートしますので、お気軽にご相談ください。

2つ目は、労働基準監督署(以後、労基署)の活用(申告)です。労基署は申告・相談があれば使用者を調査し、是正を勧告したり、指導をしてくれます。

次にご質問の部署替えの希望についてですが、これは人事異動の問題になります。会社にとって業務上効率的な人員配置をするため、必要に応じて社員の職種や勤務地を替える人事異動は、経営上、必要不可欠です。その人事権は専権事項で、人事異動の詳細は就業規則に規定されています。そして、実際の人事異動は業務上の必要性に応じて、業務命令として人事異動を発令します。

そこでご質問ですが、会社(上司)に社内異動(転勤や配転)を希望するのは、あなたの自由ですが、その業務上の必要性を判断するのは、会社です。重要なのは、異動を希望する理由で「職場環境が悪い」「仕事の不安や不満」を理由とするのでは、“わがまま”と一蹴されるでしょう。自分のキャリアを活かし、こういう仕事で事業に貢献したいというような前向きの理由でなければ、会社は聞く耳を持たないでしょう。会社によっては、公募による人事制度を取り入れているところもありますので、人事担当に確かめてみてください。

黙っていては、何も変わりません。発言すれば周囲もわかり、助けてくれる人も出て会社も動くかもしれません。会社の不合理とルール違反に立ち向かうあなたの勇気に、拍手を送ります。なお、わからない点などありましたらいつでもサポートしますので、ご一報ください。

 

 

Q.3 残業時間などについての対策

毎月残業時間が50時間を超えています。また、休日出勤の代休もままならない状況です。さらに、残業代も出ずに頑張っていますが、息の詰まる状況が続いています。何か対策はないでしょうか?

Answer

連日の時間外労働で疲労困憊のようですね! 労働者は身体が資本ですので、過労に注意してください。

労基法は「健康で文化的な生活を保障すること」を基本理念としています。そして、「所定内労働時間は、『1日8時間以内・週40時間以内』の労働時間(労基法32条)とする』ことを基本とする」と定めています。

時間外労働(残業)は「労基法36条に基づき」労使協定により「協定の範囲内」で労働させることが許されています。労使協定では、「労働者の過半数が加入している労働組合か、労働者の過半数を代表する者」による「労使協定を締結し労基署に届けること」により「その範囲内で労働者に時間外労働あるいは休日労働をさせてもよい」とされています。

延長時間の限度(残業時間)は以下の時間を超えないこととされています。

<一般労働者の場合>

従って、労使協定は上記の範囲内で締結しなければなりません。あなたの勤務する会社には、上記のような「労働条件を定めるルールが欠如しているように」思われますので、検討が必要です。

こうしたルールを確立するためには、労働者同士が結束し、使用者(経営者)と交渉する権利を確保することが大事です。

社員会的な緩やかなものでは、「憲法・労基法などを遵守させること」は困難ですので「労働組合(ユニオン)を結成」し法律で保護された組織が必要かと思います。その際は当方に優れたアドバイザーがいますのでご紹介いたします。くれぐれも個人的に行動することを避け、信頼できる同僚と相談し行動するよう、心掛けてください。ご連絡、お待ちしております。

 

Q.4 求人案内の労働時間と異なるが、労基署へ行く時間がない

求人案内では11:00~19:00となっていましたが、実際に終業時間は23:00を超え、毎月何度も早出があります。一度、労基署へ行きたいのですが、足を運ぶ時間がありません。相談は本人でないと駄目でしょうか?

Answer

ご相談内容は、雇用契約内容と実態が異なるので、契約どおりの内容に改めさせたいということのようです。

(1)雇用契約と異なる労働内容は、まず使用者(経営者)と話し合いを!
あなたは求人案内どおり、AM11:00~PM7:00までの勤務で雇用契約を結んだようですが、契約書には、時間外労働「早出・残業・深夜労働」の有無について記載されていますか? まず、それを確認する必要があります。実態は早出・残業・深夜労働などがあるようですが、契約書と異なるようでしたら、使用者と話し合い、改善を求めることが先決です。その上で改善ができない場合は、労基署の指導を仰ぐべきと考えます。

早出・残業・深夜労働が頻繁にあるようですが、「契約時間以外(法定労働時間外)」の労働には割増手当が支給されていますか? 未支給のようであれば、法定どおり支払うよう、要求してください。

(2)労基署の相談
上述のように、まず、当事者間(労働者と使用者)で話し合い解決するよう 努力することが大切です(初めから第三者の指導を仰ぐことは避けるべきです)。その上で、解決が困難な場合は「労基署」に相談してはいかがでしょうか。労基署に相談に行く時間が取れないと思わず、自ら行動する勇気が大切です。

定時出勤はAM11:00のようですので、「労基署はAM9:00からオープン」していますから、出社前に十分時間が取れると思われますが、無理でしょうか? 労基署に相談する際は、二度手間にならないようまず電話で相談をし、必要事項 (書類など)を確認して、求められる書類など整理した上で行動することをおすすめします。

Q.5 雇用契約の時間以上に働きたい!

パート勤務をしています。雇用契約書によると、定められた労働時間は、1カ月16日間・128時間となっています。社員は週6日以上、出勤しています。「私ももっと働きたい」と上司に相談したところ、「法律違反になるから駄目」と言われました。本当に、法律違反になるのでしょうか?どうしても出勤したい場合は、労基署に訴えた方がよいのでしょうか?

Answer

ご相談内容は、労働時間についてです。 

●短時間雇用契約について
(1)あなたは、短期間・短時間勤務で雇用契約を結んでいますので、契約時間を超えて労働することはできません(月間16日・128時間以内が、「短時間(パート)勤務」契約です)。 

労基法違反となりますので、使用者が罰を受けます。社員は週6日以上勤務しているとありますが、正社員契約と短時間勤務(パート)契約者は、もともと契約内容が異なっているのです。正社員は期間の定めのない契約を結んでいますし、時間外労働も異なった契約で働いています。

(2)あなたが現在の労働時間を延長し労働したい場合は、雇用契約を変更していただくか、新たな会社に就職する以外に方法はありません。 
在の勤務先に愛着があり、職場を変えずに働きたいのであれば、事情を責任者に理解していただき、勤務時間の延長した雇用契約に変更をお願いしてはいかがでしょうか?それでも理解が得られない場合は冷たいようですが、あきらめる以外、方法はありません。労基署に訴えても「雇用契約」が優先しますので、無駄足になってしまいます。

Q.6 年休(年次有給休暇)の強制取得について

会社の夏休み期間に「個人の年休をつけて連休にしなさい」と連絡があり、組合とも折衝が済んでいるとのことですが、法律ではどう解釈するのでしょうか? 取りたくない年休を取得しなければならないのでしょうか?

Answer

ご相談は労使協定による計画年休の問題になりますので、法理を含めてアドバイスします。

(1)計画年休の意義と内容

1.計画年休とは、事業場の労使協定に基づいて計画的に年休(年次有給休暇)を取得する制度で、1987年の労基法改正により設けられました(労基法39条5項)。使用者と労働者代表(労働組合)とが労使協定を結び、各人の有する年休日数のうち、5日を超える部分について、その労使協定において年休の時季を定める制度です。労働者の時季指定権も、使用者の時季変更権も、協定で定められた計画年休と日数については発生しません。5日の年休日(自由年休)が計画の対象とならないのは、個人の都合による年休利用の余地を残す必要があるからです。

2. 我が国では、年休の取得が労働者個人の指定に委ねられる結果、職場への気兼ねなどから、権利行使ができないことが大きな要因となって年休の取得率が極めて低い状況にありました。このことから、そこで年休の取得を促進するためには、職場で一斉に年休を計画的に取得することが最も効果的であるとして、計画年休制度が設けられました。 (2)計画年休の要件

(2)計画年休の要件
労使協定において、1)各労働者の年休日数のうち、5日を超える部分を対象に、2)取得時季に関する定めをしなければなりません。

(3)計画年休のタイプ
1.事業場全体で一斉に休暇を付与する方法(夏季休暇・GW休暇)
2. 班別で交替で一斉に付与する方法
3. 計画表を用いて個人ごとに年休日を決定する方法

があります。

(4)計画年休の効果
<計画年休に反対の労働者も拘束されるか>

1. 労使協定が締結されると、協定された年休日は特定され、その限りで労働者の時季指定権(いつでも自由に、年休を取得できる)も使用者の時季変更権(事業に支障がでるときに限り、年休を他の日に振り替えることができる)も排除されます。従って、計画年休に反対の労働者も拘束されることになります。つまり、反対の労働者はその日に就労することはできず、労使協定で定められた計画年休日にその者も年休を取得したことになります(三菱重工事件 福岡高裁判決 平成6年3月24日)。

2. ただし、特別の事情により年休日をあらかじめ定めることが適当でない者については、労使協定により対象から除外するなどの配慮が望ましいとしています。また、退職予定者については、退職後に年休付与計画をされても取得は不可能なため、その日数分の年休は、個人の時季指定によって取得できるとしています(労働省労働基準局長通達)。

以上が計画年休に関する法理になります。

そこで、今回のご相談になりますが、労働組合に行けば計画年休に関する労使協定が閲覧できますので、労使協定を良く読み、制度の目的、日数、設定期間、取得時期の調整、年休の残日数が不足する人などの扱いがどうなっているかを、確認してください。

あなたの「取りたくない年休を取得しなければならないのか」という主張ですが、一般的には、1)取得を希望しない者(計画表を提出しない者)、2)年休残日数が不足する者については対象外とされています。

労働協約(労使協定)は、団体協約とも呼ばれています。これは賃金、その他の労働条件について、労働者が労働組合という団体を通じて使用者と集団的に行う契約だからです。
その具体的な論議は団体交渉の中で行われ、労使の意見が一致すれば、合意事項として確認します。このようにして生まれる労使間による契約が労使協約なのです。従って、毎日の仕事にどのように労働協約が関わっているかを学び、自らが労働協約を理解した上で働くことが非常に大切です。そうでなければ、大きな努力をして勝ち取ってきた労働条件を完全に実施できないばかりか、切り下げられてしまう危険すらあります。

この意味からも労働協約は、会社に守らせるとともに、自らも協約どおりに働くということが大切になります。

Q.7 代休の繰越はできない?

現在、翌月までに取得できなかった代休は消滅してしまっています。今月、規定日数を出勤した場合に、先月に休日出勤した分の代休が消滅するのは、納得がいきません。規定日数出勤したとしても、先月に休日出勤した分の代休をまず今月休んだ日に充てて、本来休日だったその日を翌月の代休として、繰り越せないのでしょうか?

Answer

ご相談は代休の問題になりますので、法律の決まりを含めてアドバイスします。

(1)代休の意義
代休とは、事前に休日と労働日とのチェンジ(休日振替)をせず、所定休日に休日労働をさせた代償として、後日、別の所定労働日の労働義務を免除して休ませることをいいます。

(2)代休付与の要件
所定休日に労働させた場合に代休を付与することは、労基法上は要求されていません。このため、代休を付与するかどうか、代休を付与する場合にどのような要件を設定するかは、労働契約(一般には就業規則)で定まります。しかし、休日振替とは異なり、所定休日における労働が前提であるので、法定休日労働(労基法35条)の場合は休日労働についての36協定が必要であり、割増賃金(割増率は35%以上:労基法37条)の支払いもなされなければなりません。また法定外休日の場合にも、その労働により週法定時間(40時間)を超える場合は、36協定と割増賃金(割増率は25%以上:労基法37条)が必要となります。

(3)代休の効果
代休を付与したとしても、元の休日における労働はあくまでも休日労働であるため、労基法上の割増賃金が支払われなければならなりません。

ただ実務上は、代休日の消滅した賃金請求権と差引計算をして35%の割増部分のみを支払うという処理がなされます。代休日に実際に休むことができなければ、当然135%以上の賃金請求権があります。

なお、休日労働した同じ月に代休を取得できず、翌月以降に持ち越した場合、所定の賃金支払い日に割増賃金を含む賃金の支払いをしないと、賃金の全額支払原則(労基法24条)に抵触します。

(4)運用上の注意
代休制度はあるものの、現実にはほとんど代休が取れず、数十日分を保有しているといった実態があるので、代休権行使の期間を定め行使を促進するとともに、行使できなかった代休分の賃金をきちんと精算します。また、一定日数を超える代休は別の休暇(リフレッシュ休暇)として活用するなど、労使での工夫が望まれます。

以上が代休に関する法的根拠になります。 次にご相談についてですが、3点アドバイスします。

1つ目は、代休は労基法上は要求されていませんので、代休を付与するかどうか、代休を付与する場合にどのような要件を設定するかは、就業規則の定めによります。

2つ目は、元の休日における労働はあくまでも休日労働になりますので、労基法上の割増賃金が支払わなければなりません。従って、代休日に実際に休むことができなければ、135%以上の賃金請求権があります。

3つ目は、代休の期限内消化ですが、裁判例としては

1. 代休は、できる限り休日労働をさせた日に近隣した日であることが望ましい。

2. 代休について、労使双方が期限内消化への努力を傾注することとし、就業規則および給与規定に「期限内消化をしてもなお残る場合は、所属長手続による時間外手当処理とする」との規定が設けられた場合、期限内に「代休を取得することが原則、時間外手当処理は例外的措置となるが、使用者が期限内に代休を消化できる具体的な方策を講じたのにも関わらず、労働者があえて代休を取得しなかったという場合には、使用者は時間外手当処理をすべきである。

3. 代休とは、休日出勤の代償として認められた労働義務の免除であるから、あらかじめ定められた休日と同様に尊重すべきである。

などがあります。

以上のとおりで、代休の消滅は許されませんので、期限内消化への努力と行使できなかった場合(未取得分)の扱い方(賃金をきちんと精算する、別の休暇として活用する)の工夫が必要でしょう。

Q.8 求人広告に記載されていた勤務時間と違うが・・・

アルバイト先のことですが、営業時間の分しか給料が払われません。営業時間後の片付けなどのサービス残業分の請求はできますか?また、求人広告で好きな時間に勤務できると書いてあったのに、先日から勝手にシフトを固定されてしまいました。これらは労基法に違反しているのか、店長におかしいと言えることなのか、教えてください。

Answer

ご相談はアルバイトの労働契約の問題になります。基本的なことですが、パート、アルバイト、契約社員と名称や労働形態は変わっても同じ労働者であり、労基法、最低賃金法、労働安全衛生法、労災保険法、雇用保険法などの労働法は、原則として誰にでも適用になります。しかし、現実にはこのような法律自体が知られていなかったり、契約の多くが身分不安定な有期雇用であったりするために、一般の正規社員との間に格差が生じています。 ご指摘の残業や勤務時間は、労働契約の内容の中で最も重要な事項になりますので、法律の決まりを含めてアドバイスします。

(1)労働契約
ある会社に就職が決まる(パート、アルバイトも同じ)と就職しようとする人と会社との間で、どのような条件で雇う、雇われるという約束を交わします。この約束のことを「労働契約」といい、労基法では使用者に対して労働契約を結ぶときには、労働者に労働条件を明らかにすることを義務付けています(労基法15条)。労働者に労働条件を明らかにする理由は、毎月の給料・労働時間・休日・残業の有無などを口約束で済ませてしまうと、後に言った・言わないのトラブルのもとになりかねないからです。特に重要な次の事項は、「労働条件通知書」を活用し、書面で明示しなければなりません。

1.労働契約の期間に関すること 仕事をする場所、仕事の内容
2. 仕事の始めと終わりの時刻、残業の有無、休憩時間、休日、休暇など
3. 賃金の決定、計算と支払いの方法、締め切りと支払いの時期
4. 退職に関すること

(2)所定労働時間
会社(使用者)と労働者(従業員)との間で、労働契約に基づいて労働者が労働を提供すべき義務を負っている時間を、所定労働時間といいます。この時間帯は使用者が労働者から買い取った時間帯で、この時間の労働に対して賃金を支払うというのが、労働契約の最も基幹的な内容になります。従って、この時間帯外で働くと、所定時間外労働(いわゆる残業)となります。

(3)実労働時間
労働者が使用者の指揮監督の下に、現実に労働力を提供した時間を実労働時間といいます。労働時間の計算はこの実労働時間でなされ、法定労働時間(労基法がこれ以上働かせてはいけないと定めた時間=1日8時間、1週40時間)もこの実労働時間に対して適用されます。

実労働時間には、作業に必要な準備・整理を行う時間も含まれます。

(4)所定労働時間の変更
所定労働時間は労働契約で定められるものですが、労働過程においては所定労働時間の変更、始終業時刻の変更、勤務時間帯の変更が発生します。この場合は、使用者が一方的に変更することは許されず、労働者の同意が必要です。

(5)残業時間の端数処理
実労働時間を切り捨てることは許されません。従って、残業時間の端数を1残業ごとに切り捨てることが違法なことは言うまでもなく、また一定単位(10分、15分、30分など)に四捨五入してしまうことも許されません。ただし、行政解釈では集計した結果について30分未満の端数を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げることは、常に労働者の不利になるものではなく事務簡便を目的としたものと認められるため、労基法違反としては取り扱わないとされています(昭和63年3月14日 労働省通達)。

以上が、ご相談に関する法律の決まりです。これらを踏まえ、対処策について2点、アドバイスします。

1つ目のサービス残業分の請求ですが、所定時間外労働になりますので、所定内賃金と同じ割合による残業代の請求はできます。請求に当たっては残業代算定の裏付けとなるタイムカードなど、実質的な証拠の収集が必要です(メモでも可)。

2つ目のシフト固定は、労働条件の変更になりますので、労働者(あなた)の同意が必要です。

あなたが被っている不利益は店長の無知によるものと思われますので、法律の決まりに基づいて率直に話し合い、円満解決してください。

Q.9 隔日勤務の時間外手当について教えてください。

隔日勤務(1日13時間)で月に12日間働いている場合の時間外手当について、教えてください。1週の平均の労働時間は40時間を超えていませんが、1日8時間の労働時間を超えた時点で時間外手当は発生しますか?

Answer

労基法などが定める労働時間法制の大原則は、

1. 労働時間は原則として1日8時間かつ1週40時間を超えてはならない(32条)
2. 休日を原則として週1回以上与えなければならない(35条)
3. 労働時間は原則として実労働時間で算定する(労働者が使用者の指揮監督の下に、現実に労働力を提供した時間で、法定労働時間も原則としてこの実労働時間に対して適用される)

になり、労働者は、この大原則を理解することが重要です。

以上の原則に対しては、次の5つの例外があります。

1. 時間外、休日労働(法定労働時間1日8時間、1週40時間を超えて労働させたり、法定休日週1回に労働させることができる。労基法36条)
2. 変形労働時間制(労基法32条)
3. みなし労働時間制(労基法38条)
4. 適用除外(管理監督者等労基法41条)
5. 特例(労基法40条)

あなたのご相談は、このうち変形労働時間制(1カ月単位)の問題になると判断しますので、法律の決まりを含めてアドバイスします。

(1)1ヶ月単位の変形労働時間制

1.変形期間(1カ月)の総所定労働時間(使用者と労働者との間で労働契約に基づいて労働者が労働を提供するべき義務を負っている時間で、通常就業規則で定められている)の1週間当たり平均が40時間を超えないように定めてあれば(30日の月では171時間25分、31日の月の場合は177時間8分以内)、あらかじめ特定された日や週に特定された時間の範囲で法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超えても所定労働として労働させることができる制度です。

2. これは1カ月労働した後にこれを通算して、結果として1週間当たり40時間になっていれば良いという制度ではありません。なぜなら、もしそのような労働時間の事後通算を認めますと、労働者はある特定の日、または特定の週に労働しなければならない労働時間数が不明確となり、日常の生活設計ができないことになるからです。

(2)変形労働時間制を採用する場合の要件

1. 就業規則などで、ア)1カ月以内の期間とその期間の起算日、イ)期間中の全日につき労働日、所定労働時間、休日を特定(例えば月曜日8時間、水曜日12時間のように)しなければなりません。そして、期間中の総所定労働時間は週当たりの平均が40時間以内でなければなりません。

2. 就業規則などは、ア)労基署長に届け出る必要と、イ)労働者に周知することが使用者の義務として定められています。

以上がご相談に関する法律の定めになり、これを踏まえ2点、アドバイスします。

1つ目は、就業規則の定めの確認です。1カ月単位の変形労働時間制を採用する場合は就業規則による定めが必要ですので、法的要件を満たしているか否かを確認する必要があります。

2つ目は、法的要件を満たしていない場合です。法の要求する要件を満たしていない限り、違法(無効)ですので、1日8時間1週40時間を超える労働は、全て時間外労働となり、法定の割増賃金が発生することになります。

Q.10 就業規則を会社が提示してくれません!!

入社してから何度も「就業規則をください」とお願いしていますが、なかなかもらえず、数年が経ちます。就業規則はもらえないものなのでしょうか?

Answer

ご相談は就業規則などの周知の問題になりますが、せっかくの機会ですので就業規則が労基法でどう定められているかについて、アドバイスします。 就業規則とは、労働者の賃金や労働時間などの労働条件に関すること、職場内の規律、そのほか、労働者に適用される各種の定めを明文化したもので、いわば職場における法律のようなものです。この就業規則の作成から周知までを会社の自由に任せたのでは、何らかのトラブルが起こりかねませんので、労基法では、就業規則の作成手続や行政官庁への届け出、労働者への周知などについて、次のように定めています。

(1)就業規則の作成義務(労基法89条)
常時10人以上の労働者(パートや契約社員なども含まれる)を雇用している会社は、必ず就業規則を作成して、労基署長に届け出なければなりません。また就業規則を変更したときも労基署長への届け出が必要です。

(2)就業規則に定めなければならないこと(第89条)
就業規則には始業および終業の時刻、休憩時間、休日、休憩、賃金及び退職に関する事項(解雇の事由を含む)について、必ず記載しておかなければなりません。

(3)労働者からの意見聴取(第90条2項)
就業規則を作成または変更するときには、会社は労働者側の意見を聴かなければなりません。労働者側とは、その会社の労働者の過半数を組織する労働組合、これがないときには労働者の過半数を代表する者を指します。作成した就業規則を労基署長に届け出る時には、労働者側の意見を添付しなければなりません。

(4)法令との関係(92条)
会社は就業規則の作成に当たり、法律に違反することや労基法で定められた基準を下回る労働条件を定めることはできません。

(5)就業規則等の周知(第106条)
会社は就業規則のほか、労基法に基づく全ての労使協定などを次のいずれかの方法によって労働者に周知しなければなりません。

1. 常時各作業場の見やすい場所へ掲示するか、各事業場に備え付けておく。
2. 書面を労働者に交付する。
3. 磁気ディスクなどに記録し、各事業場に労働者が記録の内容を確認できるパソコンなどを設置しておく。

以上が就業規則に関する労基法の定めになります。会社には就業規則の周知義務があり、前記1)~3)に方法によって労働者に周知していないのであれば、労基法違反になり罰則が適用(117~121条)されます。従って、再度「就業規則」の周知を強く求めるとともに、どうしても駄目ならば、所轄の労基署に相談してみることも一つの方法でしょう。